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何の事はない、いつもの現場、いつもの相手だった。
配置に付く前に「そっちの工区で車両の出入りがないようなら、私の工区を手伝ってくれ」と言っておいた。
実は朝の交通量が多い時間帯に狭いガラ置き場に10トンダンプがバックで入るのだ。
一人でも出来ない事はないが、
特にやる事がなければ相方にサポートしてもらうのも良いだろうと思っての事だし、監督も、大型車両出入りの際は出来る限り二名でと日頃言っていた。
しかし、いつまで経っても相方が此方に来る気配はない。
さりとて、今日は工区から離れられない旨の連絡も入って来ない。
ダンプはすでに到着し、待避所でその巨大な車体を主張するようにエンジンをふかしている。
いい加減痺れを切らした私はなかば苛つきながら無線を入れた。
「しょんじいさん、そっちの工区何か出入りするの?」
「No se apagan Se dijo en la descarga asi que quedo aquí」
返って来たのがスペイン語で軽く絶望するも、なおを同じ質問を繰り返した。
すると
「何も出入りしないようだが、ここにいて良いといわれた」
……いや、それは
向こうの職長は"やることがなければここにいれば?"というニュアンスで言ったのだろう。
「何て訊いたの?」
「どこに居ればいいですか?と訊いた」
何でそう訊くのだろう?
この場合
"特に出入りがなければほんの数分だけ向こうの手伝いをしたいんですが、いいですか?"
と済む話だと思うのだが、私がオカシイのだろうか?
やがて、此方のオペレーターが受入れ体勢を整え、ダンプは待避所からゆっくりと動き出す。
重いタイヤが砕石を踏みしめる音がした時、相方から無線が入って来た。
「様子見て、離れられるようだったら
そのうち行きます」
……そのうち?
何を言ってるのだろう?
ダンプは既に待機していて、今まさに動き出そうとしているこの時に来ないでいつ来ると言うのだろう?
私の中で何かが切れる音がした。
「もういいです。もう要りません。言った私がバカでした」
「え?」
相方が私の言葉を聞き取れなかったのか、意味が解らなかったのかはもうどうでもいい。
相方が此方に来ないと言うことよりも
相方に言葉が通じない虚しさで自分が未開の異国か常識が通用しない異世界に突然飛ばされたかのような絶望感に押し潰されそうになりながら一回目のダンプの搬入を終えた。
* * *
上の文を読んで問に答えなさい
問①
"しょんじい"が"私"の工区に手伝いに行かなかった理由は次のうちどれでしょう?
1 、耳が遠いので朝一番の指示を聞いていなかった。
2、日本語が得意ではないので指示の真意を理解出来なかった。
3、サボりたかったから。
4、実は"私"がヒスワリ語で指示を出していた。
問②
"私の中で何かが切れる音がした。" の"何か"とは何ですか?
1、堪忍袋の緒
2、脳の血管
3、携帯の充電コード
* * *
いや、真面目に
マトモな人と仕事したいです。
( ̄▽ ̄;)
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